お知らせ

ちとせ交友会法人研修 IN オランダ

2024/07/22

ちとせの保育とオランダ

ちとせ交友会運営の保育園や子ども園に通園されている保護者の皆様、大切なお子様の教育施設として当法人の園を選んで頂き、誠にありがとうございます。
 
ちとせ交友会では、「生き生きとした元気な子」「友達と関わり育ちあう子」「自分で考え行動する子」の姿を目指して保育所保育指針や幼保連携型認定子ども園教育保育要領により日々の幼児教育を実施しております。
ちとせ交友会の保育の土台には、J・ピアジェの認知発達理論・構成論があります。保育目標を温かい家庭的な雰囲気の中で一人一人の子どもを大切にしながら「自律的な子どもを育てる」と掲げ園運営を行っております。今年で54年目となる法人ですが、この30年はピアジェの愛弟子であった日系3世のコンスタンスカミイ博士(故人)やILA(International Literacy Association)の副会長として活躍されたマリアンマニング博士(故人)等のご指導を頂きながら構成論を土台とした幼児教育のカリキュラムを実践し自律的な子どもの育成を目指してきました。

 

人間の知識は、教えられて獲得するのではなく、自分で興味を持って事物や外界に関わりながら自分で知識を構成していくというピアジェの認知発達理論を土台に、園での生活環境や遊びのプログラムを考えて保育実践をしています。生き生きとした子ども達の姿は「やってみたい」という意欲に満ち溢れた姿で、興味に基づく活動の中で自分や友達と考え合うことが大切で、知識の構成にはたくさんの上手く行かない実体験(失敗)が必要になります。上手く行かない経験により自分の知識を再構成し続けます。自分で決めて、行動し、その結果をもっとよくする工夫を子どもたちが考え出すことを意識しています。そこで先生の仕事は「考えさせるを考える」ということになります。
 

30年近く自律の保育実践を続けているちとせ交友会です。1園から始まった実践が、今では63園まで広がり、1500人以上いる職員とコンセンサスを取ることに研修の時間をかけ、目的『自律的な子ども』の育成をどのような「手段」で行うべきか保育計画や指導案、日々のデイリー、遊びのカリキュラムを共有し、実践研究を行っています。全国63の園を13のエリアに分けて、各エリアの保育マネージャーを中心に、エリア交流会で自律の保育や子どもの主体性を大切にした支援方法について学び合っています。
 

自律にむかって「考えさせるを考える」ヒントを得ようと、この度エリアの保育マネージャーを中心にオランダ視察研修を実施して参りました。教育業界では、「自律」といえば「オランダ」と言われております。子どもの幸福度世界一といわれているオランダで、ちとせの子どもたちが、よりよく生きるために学んで参りました。その内容について保護者の皆様にもご紹介したいと思います。

子どもの幸福度世界一のオランダ教育とは

オランダの教育システムは、昭和の日本のような画一的な教育から近年大きく改革されました。『100校あれば100通りの個性あり』 オランダ憲法23条で教育の自由が認められ、子どもが小学校卒業までに習得する学習内容を、いつ、どのような方法で、どのような教材を使って学ぶかということも、各学校で自由に決めることができます。子どもの学びたいことや将来の進路について、子ども、保護者、教員で面談を重ね 子どもの習熟度から見て将来的にメリットがあると判断されれば小学校のうちから留年や飛び級することもあるそうです。小学校を「自分を知る期間」と位置付け、自分の背景や何をしたいか、どこまでやれるかを自覚して必要な知識を自主的に得ていく練習をしています。

オルタナティブ教育とは

今回の研修では、「イエナプラン」「モンテッソーリ」「ダルトン」などのオルタナティブ教育の施設を見学したり講義を受けたりしました。オルタナティブ教育は、オランダで「革新的教育」と呼ばれています。通常の古典的な教育から距離を置き、個々の子どもの発達の可能性に焦点を当てた教育の総称です。
日本では、オルタナティブ教育校の多くは義務教育の卒業を認定されない場合も多いので、「一般の学校に通えない子の受け皿」とイメージする人も多いかと思います。(ここ数年日本にも卒業を認定される一条校としてのオルタナティブ教育校がいくつか開校してきました。)
オランダには、イエナプラン、モンテッソーリ、シュタイナー、ダルトン、フレネなどの学校があり、各学校で教育に関する独自のビジョンがあります。革新的教育では子どもたちの違いに基づき、子どものニーズに合わせて教育を調整しています。

主体的な子ども達

今回は、イエナプランの小学校(4歳児から12歳児まで)の視察で感じたことを共有させて頂きます。
 

イエナプランの中心をなる考え方は、「共に生きることを学ぶ」で、イエナプランで最も重要とするのは、学校はインクルーシブな考え方を子どもに育てていく場所であるという考え方です。インクルーシブとは、文化的・宗教的な背景、社会階層的な背景、性別また性的嗜好性、障害の有無などによって人と人との間に境界線を引くことなく、「全ての人を人間として同じ価値の存在として認める態度」のことをいいます。かつて画一的授業による多数の「落ちこぼれ」に悩んでいたオランダで、イエナプランは適性や発達のテンポの異なる子の個人差を考慮し、子どもがそれぞれ最大限に発達することを保障する授業方法として教育制度にも大きく影響を与えました。

 
イエナプランの特徴は、異年齢学級の通常3学年(4〜5歳児は2学年)の生徒たちから成ります。同じ学級で3年間過ごすことで、先輩に助けられ、後輩を助けるという異なる立場を経験します。4つの基本活動 対話・遊び・仕事・催し 国語や算数などの基礎学力や、現実世界にある事象について探究する力を「仕事」として自ら養っていきます。また対話や遊びや催しを通して、仕事で学んだ力を実際に使い応用する中で社会性や情緒をコントロールする力を学びます。

危機管理も自分でコントロール!?

園庭でのびのびと遊んでいる子ども達左は講義を受けている部屋からの写真です。園庭でのびのびと遊んでいる子ども達。木のブランコを思いっきり漕いでいるそばを三輪車や自転車がビュンビュン走っています。ブランコの周りに柵などありません。「ぶつかったらどうするのだろう?」日本人の私たちはハラハラ……自転車の子も三輪車の子も、ブランコの動きをよく見ていますし、ブランコの近くは通っていますがぶつからない距離をとっています。

 
私たちの園生活では、「安全第一」安全を担保するという名目のもと柵をつくり、決まりを作り「危ない」可能性のものをことごとく排除しています。日本の公園からブランコやシーソーが撤去された理由も、怪我をした場合には、管理者である行政が責任を問われ、正しいブランコの使い方や自分の体のコントロールができなかった子どもやその保護者が「被害者」になってしまうというリスク回避の理由があるような気がします。昔公園にあった遊具は、昨今では見かけなくなりドキドキハラハラするチャレンジ性のある遊具はほぼ無くなりました。

失敗から学ぶ子ども達

「子どもがけがをすることは無いのですか?」と尋ねると、「けがをすることもあるけど、怪我をした場合には、どのような状態で怪我をしたという報告を保護者にし、保護者と子どもとも話して次の対策をする。園の責任を問われることはない。小さな怪我はつきものだとみんな思っている。」との事でした。「子どもには、最初に危険なことについては知らせ、子ども達同士でも何か問題があれば自分たちで話し合っています。自分で、危険を回避する力をつけることはとても大切な事です。子ども達の力を信用しています。」という回答でした。
 

リスク管理も大切ですが、大人都合でリスク管理しすぎると、子どもの学びの機会を奪ってしまうことも多く、自分で考えたり危険を回避する力がつかない気がします。怪我は、すべては大人の責任……考え方を間違えると、自分の人生の責任さえも親に押し付けてしまうような当事者意識の薄い人間になってしまう可能性もあります。自分の人生を自分の足で堂々と歩いて生きて欲しいと願う自律の保育には、自分で考え、選び自分で責任を負う機会が必要です。
 

失敗した時に原因を探り解決に向かう力を幼児期から育むことはとても大切。忍耐力、挑戦力、意欲などの力は幼児期に身に付けなければならないと意識してはいますが、それでも怪我しないように、なるべく失敗しないように先回りして手出し、口出ししている日本の保育の現状との違いを感じました。

見守る勇気がもっと必要!

子どものロッカーから靴が落ちてぐちゃぐちゃになっていても先生が気づかせる言葉をかけたり、片づけることはしないそうです。「自分の身の回りの始末については、子ども達の方法を知らせている。自分が靴を片付けることを丁寧にせずに、外に出る時に困る経験をしたら、どうすべきか考えるでしょう。」「4~5歳になると子ども達にのこぎりの使い方を知らせている。グローブをつけて、この場所で定員〇名で遊ぶことをクラスで確認したら、自由遊びで木工活動ができるようにしている」
日本だと、先生が靴は片付けがちだし、大きなのこぎりを子どもに使わせることには抵抗感がある……と視察の最初の場面から衝撃を受けた私たちです。国の違いもありますが、子どもの力を信頼して、子どもだから……の理由で興味のある経験を奪うことなく、子どもの発達を理解しながら遊びの主人公である子どもに責任を任せている教育環境がオランダにはありました。
 
子ども達が生きていくこれからの世の中を想像しながら、必要な資質・能力が育めるように、園と保護者で手を取り合って子どもの可能性を伸ばしていきたいですね。次回は「自分で計画して学ぶ」という内容で記事を共有したいと思います。暑い夏子どもたちとともに楽しみましょうね。

ちとせ交友会 統括園長 山口和代

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